『十戒』(セシル・B・デミル、1956年、アメリカ)

BSプレミアムで見た。

モーゼの十戒」という言葉や「海が割けるシーンがある」ということぐらいしか事前知識はなかった。
ただ西洋の人文科学や社会科学はこういった世界を前提知識とした上で組み立てられているので、知らないで通すわけにはいかない。若干の義務感も持ちつつ鑑賞した。一時も目が離せない緊張感だった。

正直な所、よくわからないというのが率直な感想。ただし、自身が望んでいない(むしろ嫌悪する)男と結婚せざるを得ない女性の悲運(モーゼを愛したネフェルタリ、ヨシュアを愛したリリアはいずれも望まぬ結婚を強いられる)は時代も洋の東西も問わず存在するのだと改めて思い知らされた。

モーゼの十戒には自分には受け入れがたい戒律もある。「父と母を敬え」と言われた所で正直自分には吐き気を催すだけだ。父も母も、俺にそんなことを望ませるわけにはいかないことを既に彼ら自身が分かっている。

生産力の低い時代にはこのような律法がなければ社会秩序を維持できなかったのだろう。

母に棒に振らされた今までの人生を経て、既に俺は40が見えてきた。「俺は幼い頃母親に脳内レイプされたのだ」という結論で、ようやく自分の過去は整理できた。でもこの結論にたどり着くまで、20歳から数えたとして、もう20年を費やしてしまった。こういう映画の素晴らしさを20歳の頃に味わえるような人生を俺は送りたかった。

あとの人生が40年残っているとして、自分はどこまで自分の視座を広げ深めることが出来るのか。そして自分はこれからでも幸せになれるのか。全くわからない。

『ハンナ・アーレント』

シネマカリテで観てきた。

ハンナ・アーレントについては自分は、『人間の条件』をそのうち読みたいと思ってるけどまだ未読、という程度の状態。

作品中一番心に残ったのは夫との細やかな愛情の交し合い。最後の講義の場面も感動的ではあった。映画の後半は、自分はずっとE.W.サイード『知識人とは何か』を思い起こしていた。

丹念に作られた作品だなとは思ったが、とはいえ『イェルサレムアイヒマン』を読まなきゃ!という気持ちまでは起きず。作品内でのアーレントの主張自体は、賛同はするけど自分にとってはそれほど目新しい考えでもなかった。『人間の条件』はそのうち買うかもしれないけど。

あと、アーレントが戦時中に収容所に入れられていたということは知らなかった。

『KOTOKO』(塚本晋也監督)

昨日映画館で鑑賞。観客は8割がた女性。
自分は昔からCoccoのファンなので見に行った。

映像からも音声からも、鑑賞中には不快さを覚えた。ゆれる画面、KOTOKOの悲鳴や自傷、「2人目」、暴力シーン…。正直、早く終われと念じていた。途中からはもう、残酷なシーンが次に予想できるときは目を閉じていた。通路脇の席だったら途中で帰ってたかもしれない。

にもかかわらず鑑賞後に思ったことは「観てよかった」。
自分はもしかすると今まで、Coccoの自分に都合の良い部分を消費していただけなのかもしれない。それは全く悪い事でも何でもないのだが、実は今までだってもっと真剣に向き合っていればもっと深い見返りを得られたのではないか。今回その機会を自分で作ってよかったと思う。

鑑賞後に映画館から出て、吐き気と頭痛を覚えつつも、仕事帰りの男性女性たちを見るにつけ、あの映画を見ていない人がこんなにもたくさんいるという現実にがく然とする。

というよりも、表層だけを見ようとすれば、現実はどこまでも表層しか投げ返してくれないのだ。

KOTOKOがどれだけ人の深奥を見抜いていることか。「2人目」は本当に単なる幻影だろうか?

とはいえ、KOTOKOでさえも汚れながら生きていく。自分もKOTOKOからもらった力に感謝しつつ、そろそろ彼女から身を引き離して日常に戻らなければ。さよならKOTOKO。

『ルート・アイリッシュ』(ケン・ローチ監督)

今日観に行ってきた。

「ルート・アイリッシュ」とは公式HPによると「イラクバグダッド空港と市内の米軍管轄区域グリーンゾーンを結ぶ12キロに及ぶ道路」のこと。「03年の米軍によるイラク侵攻後、テロ攻撃の第一目的とされる“世界一、危険な道路”」との説明もある。

いつも通りのケン・ローチの骨太な作品。そしていつも通り後味は複雑かつ暗い。しかしそれが社会の現実ということをいつも思い知らされる。今回もそうだった。

ベルセルク 黄金時代篇1 覇王の卵

今日見に行ってきた。


ああ何かバカがたくさんいるなと…
いや、『ベルセルク』に手を出すなんて恐ろしい事をやってしまった人達がたくさんいたのだなと感じた。羽海野チカ先生がおっしゃる通り(http://togetter.com/li/249246)、下手な手出しをするととんでもないことになる物語なんだが。


でも凄かった。原作の世界観が全然壊れていない。
後につながる伏線はセリフや映像できちんと押さえられてたし。


世間的には今回の三部作で描かれる鷹の団篇が一番面白いという事にどうやらなっているらしく、なぜだろうと思っていたけど(自分的にはその後のほうが面白い)、ああなるほどそういうことかと思わされた。腐女子が喜びそうだよな。青春と言えば青春かな…。


グリフィスの「いーだろ」のセリフは、後の展開を知る者としては痛々しすぎて正視できなかった。


とはいえ、前売り券買った自分には値段相応かなと感じられたけど、正規で買ったらちょっと高く感じたかもしれない。原作読んでるしな。


公開からもう2週間以上経っているせいか、席はガラガラだった。俺含めお客さんは4人しかいなかった。


一般受けはしてないんだろうな…。グリフィスがお姫様を篭絡していく過程のスマートさに舌を巻くなんて子どもには無理だし。自分的には、あのギリギリの所で生をつないでいる世界観を味わって、なおかつ、これって現実世界でも同じだよなと改めて思わされたという点において、観に行ってよかった。


あと、一番最後の百人長とかはいらなかった。


公式HPはこちら。http://www.berserkfilm.com/index.php

なでしこリーグ 浦和 対 神戸(2011年10月30日)

NACK5スタジアム現地観戦。(¥1,000で見られるなんてすごい!)

大宮駅から徒歩20分。初めて行ったが、こぢんまりとしたスタジアム。観客席とピッチの距離が近くて好印象。バックスタンド側に座ったけど、近い!川澄が!みたいな声が周囲からも聞こえた。

あとは浦和の応援団^^;
何あれ?でもあの統率の取れた応援と声のデカさは、アウェーチームには確かにプレッシャーだろう。


自分はなでしこ日本代表対なでしこリーグ選抜を見たことがあるだけで、なでしこリーグの試合を現地で見たのは初めてなのでよくわからないが、かなりの好ゲームだったと思う。89分に澤選手に決められ1対1のドローに持ち込まれてしまったが、浦和の辛抱強さが印象に残った。

前半川澄選手が自分の席から近いところでプレーしていたのでよく見えたのだが、浦和の若い23番のDFが一生懸命川澄を封じようとしていて、多少ミスはあったがある程度は押さえ込んでいたと思う。あと自分は澤選手を目で追うことが多かったのだが、澤選手がボールを受けてもパスの出しどころがなく後ろに戻さざるを得ない場面が何度かあった。それだけ組織的な守備を浦和が出来ていたということだと思う。


だがやはり澤選手は凄い。状況判断が早く、無駄なプレーが少なく、100%以上の力を傾注してやるべきことをやる。結局最後に点をもぎ取ってしまうし。

ああ仕事ってこういうものだよなと。


とても充実した気持ちと、さあお前は?という問いを突きつけられた思いでスタジアムを後にした。